保証会社が訴えられた追い出し特約無効の裁判とは?

2022年冬、不動産業界に激震の走る新たな判例が追加されました、発端は『消費者支援機構関西』というNPO法人が賃貸保証会社を訴えた裁判です。

『賃貸保証会社』とは、賃貸物件を借りる際に連帯保証人の代わりとして借主が加入させられるサービスで、もし月々の家賃を滞納しても、保証会社がオーナーの代わりに賃料を立て替えて支払い、借主への取り立ても保証会社自身が行ってくれるというサービスです。
今回訴えられた保証会社には借主が家賃を滞納して一定条件を満たした場合、裁判等を経ずに問答無用で賃貸したお部屋を明け渡したものとする『追い出し特約』という条項がありました。
しかしこれは消費者契約法違反ではないか?との事でNPO法人に訴えられたのです。

訴えられた保証会社の契約内容とはどんな条文だったのか?

訴えられた保証会社では契約内容に以下の条文がありました。

・賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達したときは、無催告にて原契約を解除することができるものとする

・賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り、被上告人が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる

裁判所

1審は同条項は違法であるとして差止めを命じられましたが、2審は同条項には「相応の合理性がある」として適法と判断されました。
結局、裁判は最高裁までもつれ込み、上記条項は消費者契約法10条に違反するとして無効となる判断が為されました。

保証会社の契約条項が違反となった消費者契約法第10条とはいったいどんな法律か?

消費者契約法 第十条

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。


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  • 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項

不作為とは、何もしない事を意味しており、消費者が何もしない事で新たな契約や申込、または承諾や意思表示をしたものとみなすような条項を指します。

例えとして東京都のホームページに以下のような例があげられていました。

掃除機を購入時に、健康食品が同封されており、電話で解約を申し出ない限り、健康食品は継続的に届けられる定期購入となると言う契約条項

東京くらしWEB

次に

  • 法令中の公の秩序に関しない規定

法令中の公の秩序に関しない規定とはいわゆる任意規定と呼ばれるものです。

任意規定とは公の秩序に関しない定めで、法律について一定の定めはあるけれど、それと異なる合意や定めをした場合、その合意や定めが優先されるという法律の規定の事を指します。


つまり、何かサービスやシステムに加入し契約を結んだ場合、その契約の条文が公の秩序に関しないような定めであれば法律よりも優先されるという事です。

  • 消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする

民法第一条第二項は下記の通りです。

民法 第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

e-Gov法令検索

消費者契約法第10条は消費者を守る法律

消費者契約法10条とは、消費者が何もしない事によって新たに契約に申し込んだ事になったり意思表示した事になるような条項や消費者の権利を制限したり、義務を重くするような条項で信義に誠実で無いような、消費者の利益を一方的に害する条項は無効となりますという法律です

これに従って保証会社の条項を見てみると、滞納していて連絡が取れない場合に保証会社の判断のみで賃貸借契約の解除ができるという消費者契約法10条に反していると捉えても問題のない、保証会社側に強い条項と考えられます。

今回の裁判に関する記事ではこのように紹介されています。

 判決は賃貸借契約を直接結んでいるのが家主と借り主である点を重視。借り主の権利が当事者ではない家賃保証会社の一存で制限され、法的な手続きに基づかずに明け渡しと同様の状態になる点を著しく不当だとした。

3カ月以上の滞納で家賃保証会社が事前通告なく賃貸借契約を解除できるとした別の条項も同様に違法と指摘し、「契約解除は生活の基盤を失わせる重大な事態を招き得るため、先立って通告する必要性は大きい」とした。

共同通信社

自力救済の禁止とは

民法に置いて自身に権利が侵害された場合に司法を通さずに自らの実力行使によって解決を図る事は基本的に禁止されています。
例えば敷地に違法駐車された車を無理やり撤去したりロックをかけたりする行為は自力救済となり、逆に窃盗や器物破損で訴えられる可能性があります。


今回の件も同様で、滞納している借主に対し、大家様が法的手続きを経ずに家の鍵を交換したり荷物を撤去する事は元々違法行為とされていた中、保証会社の条文のみよって法的手続きを経ずにそれが可能となってしまえばおかしい話です。

一般的な常識で考えると家賃を支払わないのに追い出すのが違法なのか?何かおかしくないか?と思ってしまいますが法的な考え方をすれば、この条文が違法となるのも致し仕方ないとも思えます。

そもそも賃貸住宅における日本の法律は借地借家法という法律でかなり借主側に有利に作られています。
誰がもが予期せぬ出来事に合い、失業や事故によって収入が得られなくなる可能性を持っているのに、滞納があれば司法を通さずに保証人の代わりとなるサービスが契約の条文だけで問答無用で住居を解除・追い出し可能となってしまっては安心して賃貸住宅に住むことができなくなるからです。
今回の判決は弱者によりそった判決としては妥当なものでしょう。

法的には妥当だが、今後の賃貸入居申し込みの負担が増えていくかもしれない

元々追い出し条項とは夜逃げした人間に対し裁判を行う事が難しく費用もかかるため、滞納があり客観的に見て契約者が戻って来なそうな場合に裁判を経ずに契約解除をしてしまおうという条項でした。
この条項が無効になってしまうと、保証会社は連絡が付かない相手に裁判が完了するまで家賃を保証し続けなければいけません、大赤字は必至です。
今回訴えられた保証会社は審査が通りやすい事で有名でしたが、今まで行っていた甘めの審査で保証契約を承認し、万が一滞納した場合はすぐに追い出すという形が使えなくなってしまいました。

今後は審査を厳しくして少しでも滞納のリスクがある人は保証審査を否認する事になったり契約時の保証料を上げる事で滞納の無い普通の契約者様から滞納者分の費用を回収していく事になります。
万が一発生する滞納者のためにまともに家賃を払っている人の負担が増えていくわけです。


2020年の法改正により連帯保証人から回収できる滞納額の金額に制限がかけられ、賃貸物件では保証会社が必須となりつつあります。
その状態でこのような判決が出されてしまうと、高齢者やシングルマザー、過去に滞納記録のある人や金銭的弱者の方が今まで審査が保証会社を利用してなんとか入居できていたにも関わらず、今回の件で審査が厳しくなり、引っ越ししようにも入居申し込みの段階で徹底的に審査を弾かれ住む家が見つから無くなったり、金銭的猶予がある人にしか賃貸住宅が貸すことができなくなったり、審査が通りやすいように希望のワンラク下の部屋しか選べなくなる日が来るかもしれません。

 
最終的に、最高裁判決は妥当なのか?


法的に考えると消費者契約法や自力救済禁止の原作に基づき妥当と考えられますが、借主側を守るために行われたこの裁判の結果、本来保証人として必須となりつつある保証会社側に著しく不利な形となったため、今後の保証会社の出方次第では、長い目で見た時に借主側に大きな負担がのしかかっていく可能性があります。