賃貸物件のお持ちのオーナー様が騒音などでに騒音の多い入居者を強制解約したい、建て替えや使用の予定があるため今の入居者を退去させたいというような場合、簡単に入居者を退去させる事はできません。

入居者を退去させたい時に立ちはだかるのが、賃貸の入居者を手厚く保護する法律、『借地借家法』です。
賃貸住宅の契約は入居者側に非常に有利に作られています。借地借家法とはどのような法律なのでしょうか。

借地借家法とその制定理由

借地借家法は土地を借りてその上に自分で家を建てて住んでいる入居者(建物所有を目的とした土地の賃貸)や賃貸住宅(アパート・マンション)を借りて住んでいる入居者を守る法律です。
今回は賃貸住宅の部分である「借家」に絞って解説をします。

賃貸というものは物件を持っているのがオーナー側であり、人が生活する上で根幹となる衣・食・住の「住」を貸していることとなります、そのため力関係的に入居者が弱くなってしまいます。
しかしてオーナー側の力が強いからといって好き勝手に条件を変えられたり「来月からその部屋を使うから出て行ってくれ」「次の更新から家賃2万円アップで」と言われてしまっては入居者側が困ってしまいます。
そこで弱い立場である入居者を保護するべく制定されたのが借地借家法となります

借地借家法は基本的に借主有利

・入居者に引き続き住む意志がある場合は、正当な理由がなければ更新の打ち切りや強制解約はできない。

何の理由もなしに賃貸借契約を途中から更新不可とする事はできず、穏便に退去して頂くには正当事由が必要となります。
例えば

・物件の老朽化
・家賃の滞納
・入居者の勝手な造作

これらは正当事由となりますが、騒音がうるさいなどの場合で入居者に解約の通知を出しても退去しない場合は裁判で『基準を超える騒音を頻繁に発していたため正当事由あり』と証明されなければ退去させるのが難しくなります。
他にも引っ越し代と次の物件の初期費用を負担する事で正当事由として認められる場合があります。
そのため、建物を更地にして売りたい・建て替えをしたい、などの理由で入居者全員に退去して頂く場合は空室が多ければよいですが、満室だったり戸数が多い場合は大きな金額が必要となってしまいます。


・更新などで不当に家賃を吊り上げるような事はできない。

借地借家法では家賃の増減についてこのように定められています

建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

つまり固定資産税などが上がった場合や周辺の同種の物件に比べて家賃が安い(もしくは近辺一帯の価値が上がったため相対的に今の賃料が安くなった)等の事由がない限り値上げは難しくなります。
値上げを打診し、それに入居者が反対した場合は入居者側はいままで通りの賃料を払い続ける事で居住の権利を保障されます。
また、オーナー側が「値上げ後の賃料しか受け取りません」と受け取りを拒否しても入居者は最寄りの供託所(法務局)に今まで通りの金額を供託する事で居住の権利を得ることができます

正当に値上げして賃料を頂くには、裁判を行い妥当性が認められた後でなければ支払った賃料との差額を頂く事ができないのです。
裁判には時間もお金もかかってしまいますので、相当な値上げが見込めない限りは家賃の値上げに関して裁判を行う事は難しいでしょう。


・借主に不利な特約は無効となる

建物の賃貸借契約(普通借家契約)において貸主に有利すぎる特約、借主に対しあまりに不利な特約を定めた場合、記名や押印を契約書に頂いている場合でも無効となってしまいます。

例として、『家賃の減額請求はできないものとする』『借主が差し押さえを受け又は破産宣告の申し立てを受けた時は直ちに契約解除ができる』という特約を付けても借主に不利な特約になるため無効になります。逆に借主が有利な特約であればいくらでも有効となります。

・借主に有利にする事でオーナー側と入居者の力のバランスを保っている

賃貸を借りている入居者の誰しもが急に引っ越しをできるような財産的余裕や時間的な余裕をもっているわけではありません。
入居者が20万30万という初期費用を払い吟味を重ねて見つけた物件をオーナー側の胸先三寸で解約や値上げができてしまっては安心して賃貸に住む事ができません。
借地借家法のおかげで入居者は賃貸を安心して借りる事ができるのです。

・どうしてもリスクを背負いたくない時に定期借家契約

オーナー側からするとリスクを背負って賃貸住宅を建て、ローンを返しながらなんとかやりくりしている物件を、一度貸してしまったら全く自由に解約も値上げもできないのでは困ってしまいます。
そこで、契約期間満了で確実に契約を終了できる定期借家契約という制度が平成12年3月1日より法改正で作られました。
定期借家契約に関しては以下の記事をご覧下さい。

契約期間満了で確実に契約終了する事ができる短期向け契約『定期借家契約』とは、普通借家契約とのメリット、デメリット