アパート・マンションなどの賃貸物件を貸しているオーナー様は普通賃貸借契約で募集を出しているかと思いますが(契約期間が2年、更新有り)例えばご入居された入居者様がその後10年20年借り続ける事もありえます。
一般的には嬉しい事ですが、建て替えを行いたい時、自分で部屋を使用したい時、入居者がクレーマー気質であったりで考えが合わないためもう貸したくない時に、オーナーから更新したくないので今回の更新で終了したいと申し出ても契約者様に借りる意志がある限り、正当事由がなければ契約の終了は認められません。
借主側に有利な普通賃貸借契約と借地借家法
上記の記事でも以前ご紹介しましたが、賃貸借契約は借主に有利にできています。
「住居」という人の生活上必要不可欠なものを貸している以上、立場の強いオーナー側が好き勝手できないよう法律によって定められており、簡単に入居者を追い出す事もできないようになっています。
滞納や騒音、迷惑行為があってもオーナーが勝手に荷物を搬出したり鍵を交換したりすれば契約違反となり訴えられる場合があります。
契約者の同意のもと解約を行うか裁判を経て強制解約の許可を得なければいけません。
しかし、リスクを負って賃貸物件を立てたうえ、毎月頑張ってローンを返済しているのに、貸主側にあまりに自由が無さすぎます。
そんな中、平成12年にとある仕組みが作られました。
それが定期借家契約です。
これは賃貸住宅の入れ替わりを促進し、賃貸住宅の供給の偏りや賃料の硬直化を防ぐ目的で創設されたものです。
良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法(概要)
第1 目的(第1条)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC1000000153 e–Govポータル
- この法律は、良質な賃貸住宅等の供給を促進するため、国及び地方公共団体が必要な措置を講ずるよう努めることとするとともに、定期建物賃貸借制度を設け、もって国民生活の安定と福祉の増進に寄与することを目的とすること。
- (1) 定期建物賃貸借制度の創設
- ① 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書等の書面によって契約をするときに限り、契約の更新がないこととする旨を定めることができるものとすること。
- ② ①の定めをするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ建物の賃借人に対し、当該賃貸借は更新がなく、期間の満了により終了する旨を書面を交付して説明しなければならないものとし、その説明をしなかったときは、いわゆる正当事由借家契約となるものとすること。
- (2) 期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知
- 定期建物賃貸借において、期間が1年以上である場合には賃貸人は、期間の満了の1年前から6月前までの間(以下「通知期間」という。)に賃借人に対し期間の満了により賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を賃借人に対抗することができないものとすること。ただし、賃貸人が通知期間の経過後賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から6月を経過した後は、この限りでないものとすること。
- (3) 借家人の中途解約
- 居住の用に供する建物(その床面積が200平方メートル未満のものに限る。)の定期賃貸借において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、賃借人は、賃貸借の解約の申入れをすることができるものとすること。この場合、賃貸借は、解約の申入れの日から1月を経過することによって終了するものとすること。
普通借家契約が契約者の望む限り大家側に正当事由がないと更新を拒否する事ができないのに対し、
定期借家契約は更新がなく、契約期間満了でそのまま契約終了となります。
(ただし、貸主側から契約期間満了の6ヵ月前に契約が終了する旨の通知を出す必要あり。)
また双方の合意があれば再契約という形でもう一度契約を結びなおす事が可能となります。
つまりオーナー側が契約終了期間毎にこの契約を満了にするか、再契約してこのまま入居してもらうかのどちらかを選ぶことができるのです。
なぜ定期借家契約は流行らずに普通借家契約が主流なのか
何故『定期借家契約』というオーナー側に有利な契約形態があるのにも関わらず『普通借家契約』が主流なのでしょうか?
そこにはいくつかのデメリットがあるからです。
・途中から定期借家契約にするには、普通借家契約を一旦合意により終了させなければいけない。
普通借家契約を結んでいる場合は途中から定期借家契約に変更する場合は以前の契約を合意終了させる必要があります。
その後定期借家契約で再度契約を結ぶ事になります、しかし、入居者から反対された場合は途中から定期借家契約に変更する事はできません。
なお、平成12 年3月1日以前から続いている契約の場合は合意解除して『普通借家契約』を『定期借家契約』に変更しても認められません。
そのため、仮に定期借家契約を結び、半年前に契約期間満了の通知を出しても入居者に反対された場合は契約の終了できずに更新する事になります。
・募集の難易度が上がる
最初から定期借家契約で募集を出す場合、長い期間借りようと思っている人は定期借家契約で募集されている賃貸には申し込みません。
また、賃貸を借りる際に次はいつまでに引っ越そうなどと考える方はほとんどいません。
もし転勤で今後引っ越す予定がある場合でも、いつまでになるかは未定な場合がほとんどです。
あえて期限が区切られていて更新できるかもわからない物件に住もうという方はかなり限られますので、申込者が入るまでの難易度が跳ね上がります。
・通常の募集よりは家賃を下げないといけない
同じグレード 同じ価格帯 同じ地域の物件で定期借家と普通借家契約があれば誰でも普通借家契約を選びますので、余程魅力的な物件ではない限りは他の物件より若干の家賃の値下げが必要となります。
万が一の際の更新拒否・契約解除ために月次の家賃を下げるくらいであれば、ずっと入居して貰った方がいいというオーナー様の方が多数です。
・定期借家契約にしなくても正当事由があれば立ち退き料を支払って解約できる事が多い
もし建物の老朽化やオーナー側の高齢より管理できなくなり、物件を売買したいけど売れないので更地にしたいような場合は立ち退き料を払う事で正当事由有と認められる事が多くなります。
よって定期借家契約にするのではなく、入居者が退去した際に募集を出さずに少しずつ人を減らし、最後に残った入居者に立ち退き料を払って賃貸を空室にして更地にするというケースが多くなります。
どんな時に定期借家契約を結べばいいのか
・建て替えや取り壊しが決まっている時
建て替え、取り壊し予定だからといって退去後に募集をせずにどんどん空室が増えていくよりも、定期借家契約で募集を出して契約期間をきちんと管理する事で、立退料等を支払わなくても最後まで賃料収入を得る事ができます。
・自分で使用する予定がある時
転勤などにより一時的に自信が住んでいる戸建てや分譲マンションを長期間空ける場合は、せっかく活用できる資産があるのにただ空室のまま塩漬けにしておくのではもったいないです。
ある程度の期間で戻って来て自身で使用する事がわかっているのであれば、定期借家契約で貸し出す事で無駄なく賃料収入を得る事ができます。
『定期借家契約』を使わないにしても、ひとつの選択肢として今後を考える事が大切
令和3年度住宅市場動向調査報告書によると令和3年の定期借家制度の利用は 1.9%しかありません、
令和3年に賃貸の住み替えを行った人に対する『定期借家契約』という制度を知っているかという国土交通省の質問に関して
知っている:15.1%
名前だけ知っている:21.2%
知らない:62.8%
となっています
この状態はそもそも定期借家契約という制度の使い所が難しく、
どんなメリット、デメリットがあるのかが周知されていないため、よくわからない、知らない人、そのためそもそも募集も申込も無いように感じます。
ある一定期間貸したい、短期で貸したい、借りたいという需要の物件所有者にもっとこの制度が周知され受け入れられれば転勤するファミリー物件などの市場が活発になるのではないでしょうか?
オーナー側と入居者の新たなる妥協点、『再契約型定期借家契約』とは
再契約型定期借家とは定期借家ではあるけれども予め再契約の余地を残すした新たな定期借家契約です。
オーナー側はいざという時のリスクを排する事が可能で、入居者も問題を起こさなければ再契約という形で物件に住み続ける事が可能になります。
詳しくは下記記事に詳しく記載してありますのでご覧ください。