アパートに長年住んでいただいたご入居者様が退去して、中を見て見たらもの凄いボロボロな状態。
修繕費用が結構かかってしまうけど、どこまで入居者負担になるのか、どこまで請求していいのかわからない。そんな時にどこまで入居者負担で清掃・修繕を行えるのか解説していきます。

本文は 国土交通省公式サイトの原状回復をめぐるトラブルとガイドラインに基づき記載しています。

まずは契約書を確認する

契約書には基本手に退去時にどのような形で退去時費用を収めるのか記載されており、
大まかに3つに分類されます。
大抵は特約という部分に記載されています。

  • 契約締結時に預かった敷金より、室内クリーニング費用を差し引きし、残りの金額を返金する。
    なお、借主の故意過失による汚損・破損があった場合も敷金から差し引いて修繕費用とすることができる、敷金で賄いきれない場合は別途請求となる。
  • 敷金償却という『最初に収めた敷金は全て返還されません』という特約が結ばれた契約の場合は、上記と同じように敷金より室内クリーニング費用を捻出し、借主の故意過失による汚損・破損があった場合も敷金より修繕費用とすることができ、賄いきれない部分は別途請求となる。というところまでは同じですが。
    例えば急な用事で入居開始から3ヶ月で入居者が退去するために部屋はほぼ綺麗でクリーニング費用も大してかからず、汚損・破損等が無いだったとしても最初に頂いた敷金を全てオーナー様が取得する事が可能です。
  • 敷金等が無く、クリーニング費用〇〇円を契約締結時に支払う、もしくは解約時に支払うという契約。
    故意過失の汚損・破損があった場合は別途請求となる。

つまり、クリーニングに敷金を使うケースは残った分は借主に返金かオーナーが取得するかの2種類
敷金は無く清掃費として頂くかのどれかで、全てにおいて借主側過失による汚損破損は別途請求となります。

どこまでを入居者負担に含めるか

入居者負担になる汚損・破損とは、例えば転倒して壁紙を大きく破いてしまった、醤油を大量にこぼしてしまいシミがついて取れなくなった、クーラーから水漏れを放置していたらカビの大繁殖や腐敗がおこってしまった、などが挙げられます。
普通に住んでいて付いた軽微な傷、日光による日焼けでできた壁や床の色あせ、家具の設置による床のへこみなど通常使用による損耗は借主負担には含まれません。

減価償却


資産は時間が経つにつれて、価値が減っていきます、この事を減価償却と言います

例えば15年以上住んでいる入居者に、「壁紙に汚れが沢山あるからこれは全額借主負担で張替え費用を出してください」と言ってもそれは認められません。
賃貸における設備や内装の価値は年数を立つごとに減っていきます。
壁紙、畳み、クッションフロアの価値は6年で1円となります。
例えば3年間住んで退去した場合に壁紙が汚れており、張替えになる場合は50%の費用を入居者が負担する形となります。

設備耐用年数
壁紙・クロス6年
6年
カーペット6年
クッションフロア6年
フローリング建物の耐用年数
障子、襖紙消耗品
エアコン10年
トイレ15年



では6年以上経過しているからといって壁全面が煙草のヤニまみれ落書きまみれでも借主負担は無しですむのかと言うとそんな事はありません。

『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』といくつかの判例

国土交通省住宅局が発行した『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』にはこのような事が書かれています。

少し難解なため要約すると。
耐用年数が過ぎた設備や内装であっても普通に使える場合が多いため、借主が異常な使い方をして使用不可になってしまったものを「耐用年数が過ぎているから」というだけで過失を負担を免れるのはおかしいので場合によっては修繕工事の負担が借主にも課せられる場合がありますという文章です。

経過年数を超えた設備等を含む賃借物件であっても、賃借人は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っていることは言うまでもなく、そのため、経過年数を超えた設備等であっても、修繕等の工事に伴う負担が必要となることがあり得ることを賃借人は留意する必要がある。

具体的には、経過年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場
合があり、このような場合に賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった
場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す、例えば、賃借人がクロスに故
意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となるこ
とがあるものである。

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン (2) 経過年数の考え方の導入


それに合わせて1つの判例を見て見ましょう

下記の判例になりますが、
退去後の壁が汚かったため、敷金を丸々使って減価償却期間を過ぎた壁を修繕したオーナー様が、入居者に敷金を返すよう求められた裁判です。
判決では退去後の修繕で通常損耗部分(普通に使っていて経年劣化や日常生活で汚れた部分)に敷金を使うのは認められないので、タバコのヤニなどの入居者に過失がある部分の代金だけを敷金から差し引きし、残りを全額返すように判決が下りました。

[事例 31] 賃借人が負担すべき特別損耗の修繕費用につき、減価分を考慮して算定した事例
神戸地方裁判所尼崎支部判決 平成21年1月21日
〔敷金 31 万 1000 円 返還請求 28 万 3368 円のうち、25 万 3298 円〕

1 事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、賃貸人Yとの間で平成12年2月1日、本件住宅につき平成12年2月1日から平成13年3
月31日まで(期間満了日の6か月前までに双方の異議がなければ、家賃及び敷金を除き、同一条件
でさらに1年間延長されたものとし、以後この例による)、賃料月額11万7000円、共益費月額8000円、敷金31万1000円とする賃貸借契約を締結し、賃貸人Yに対して敷金を交付した。

賃借人Xは、平成19年6月ころ、賃貸人Yに対し、本件賃貸借契約の解約を通知し、同年7月3
日、本件住宅を明け渡した。
賃借人Xと賃貸人Yは、7月1日から3日までの日割賃料5992円を敷金から控除することを合意した。賃貸人Yは本件住宅の住宅復旧費(タバコのヤニの付着によるクロスの張替え、床の削れ補修)28万3368円についても敷金から控除し、賃借人Xに対して敷金残金として6万1640円を返還した。
これに対して、賃借人Xは住宅復旧費として控除された28万3368円分の敷金の返還を求めて提訴した。

2 判決の要旨


これに対して裁判所は、
(1)賃借人は、通常損耗について原状回復義務を負うとの特約がない限り、特別損耗(「通常損
耗」を超える損耗)についてのみ原状回復義務を負うと解するのが相当である。

(2)賃借人が賃貸借契約終了時に賃借物件に生じた特別損耗を除去するための補修を行った結
果、補修方法が同一であるため通常損耗をも回復することとなる場合、当該補修は、本来
賃貸人において負担すべき通常損耗に対する補修をも含むこととなるから、賃借人は、特
別損耗に対する補修金額として、補修金額全体から当該補修によって回復した通常損耗に
よる減価分を控除した残額のみ負担すると解すべきである。

【意訳:借主が負担する補修の金額は特別損耗となる部分のみだけだが、壁紙の張替えを行ってそのまま全額請求すると通常損耗分も負担してしまう事になるので補修費用全体から回復した通常損耗分の費用を差し引きして、残った特別損耗部分の代金のみを借主負担とするべきである。】


(3)本件クロスの変色は喫煙によるタバコのヤニが付着したことが主たる原因であり、クロス
の洗浄によっては除去できない特別損耗である。本件変色の補修はクロスの全面張替えに
よるしかないが、賃借人Xは補修金額としてクロスの張替え費用から本件クロスの通常損
耗による減価分(減価割合 90%)を控除した残額を負担することとなる。

(4)床の削れが特別損耗であることは争いがなく、その補修方法はタッチアップによる方法が
相当である。この補修では、賃借人Xによる毀損部分(特別損耗)のみの補修となるため、
賃借人Xがその全額を負担すべきである。

(5)本件賃貸借契約上、本件住宅内での喫煙は禁止されていないから、賃借人夫婦が本件住宅
内で喫煙したこと自体は善管注意義務違反とはならない。タバコのヤニの付着については
管理について善管注意義務違反が認められる余地があるものの、これによって賃貸人に生
じる損害は、上記の賃借人が負担すべき補修金額と同額であるというべきである。

(6)以上から、敷金残金25万3298円の返還を認めた。

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン 事案及び争点となった部位等 事例 31

上記の判例ですと入居期間が7年5ヶ月なため、クロスの減価償却期間の6年過ぎていますが、クロスの借主負担分は1割、床の削れと、壁紙の特別損耗分として30,070円が借主負担となりました。

このように償却期間を過ぎていても借主から負担費用を支払ってもらう事が可能で、他の判例でも借主過失のクロス汚れに関して償却期間を過ぎていても1割程度負担の判例が出ています。

どうしても直せない箇所、あまりにも費用がかさむ部分は現況渡しという事も

『室内清掃(ルームクリーニング)』と『借主過失の部分の修繕』が判明したら、後に残るのは経年劣化や通常損耗によって変えなければいけない内装や設備になります。

しかし、次の入居者のためにあらゆるものを新品同然にしていたら賃貸経営が成り立たなくなってしまいます。
例えば、家賃が4万円のお部屋で「小窓の部品が劣化して開きづらいけれど、このメーカーの窓の部品が生産終了しているので窓枠から何からまで全ての交換工事が必要です、50万円かかります」と言われた場合、窓を新品にするためには1年以上の賃料を使わなければいけません。
そういった場合には「ここの窓が開きづらいけれど、修理はせずにそのままでのお渡しになります。」
というように、直さずにお渡しになるという事を通知してお互いの了承が取れていれば問題なく契約が行えます。
新築ならまだしも、古い賃貸で床のへこみや柱の傷などの細かな部分を全て修理していてはお金がいくらあっても足りません。
傷の具合と築年数、部屋全体の綺麗さ、修繕費用、家賃帯などを鑑みてどこまで部屋を綺麗にするのか、
どこまで綺麗にすれば次の入居者に入居して貰えるかを考える事が大切です。

まとめ

上記で『どこまで綺麗にすれば次の入居者に入居して貰えるかを考える事が大切』
と書きましたがお部屋を貸しているオーナー様側で、どこまで直すのがベストなのか自分で判断する事は難しい事です。

良く知らない業者を入れて、言われるがまま唯々諾々と話を進めてしまうと割高になってしまったり、適当に工事をされてしまいます。

その場合は不動産会社・賃貸物件の管理会社などに相談する事が大切です。
その道のプロであればどこまで直すべきか、ベストな方法や採算を合わせる方法を知っています。

弊社では直すべき箇所の見積もりを全て取った後に「どこを直すか、また、直さなくても問題無部分は無いのか」「簡単な補修で済ます方法は無いのか」「逆に絶対に直さなければいけない箇所はどこか」オーナー様と綿密に相談して修繕手配を請け負っています。
もし、何か修繕の事でお困りであれば南口不動産へご連絡下さい。